お菓子をくれなきゃ悪戯だ!
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


    6



 冬場の和風甘味の代表でもある鯛焼きは、近所の○○銀座のカド屋のが 薄皮で香ばしくて断然美味しいと、紅ばらさんこと久蔵が言い出したのへ。

 「あああっ、
  こないだはゴロさんが焼いた
  タピオカもちもちの白皮鯛焼きが美味しいと言ったくせにっ!」

 ひなげしさんこと平八が“聞き捨てならぬっ”とばかりにいきり立ってしまい。そんな二人の間へ割って入って、

 「まあまあ、ヘイさんたら落ち着いて。
  今はベストじゃなくてオンリーワンという時代ですよ?」

 実はどっちもお気に入りな白百合さんこと七郎次が、微妙にして調子のいい引き分け方をしてみたり。三人ともあんこ大好きなればこその、いかにも食べ盛りなことを匂わせる、お茶目で食いしん坊さんな話題だってのに、

 『きっと、ひなげしさんが
  “今朝はネ、コロコロした仔犬の夢を見たのよ”なんて
  あまりに可愛らしいことを仰有って。』

 『それへ、紅ばらさんが
  “あらあら、お寝坊した言い訳かしら?”なんて
  ちょっぴり意地悪にからかったものだから。』

 『勿論 本気じゃあなくっておいでなお二人だと見越して、
  “まあまあ およしなさいな、大人げない”と、
  白百合さんが品よく引き分けているのよ、きっとvv』

 やや童顔なままに それは朗らかで愛らしいひなげしさんであり、それに相反して伏し目がちになってのクールな笑い方も様になる紅ばらさんであり。そんな二人をいともたやすく宥めてしまえる、慈愛豊かに神々しく微笑う白百合さんだったりするものだから。もしも女学園のお友達が見ていたならば、透過光やら弦楽のBGMやらという きらびやかな演出効果を従えての、何とも優雅で品のいい会話の図に変換されていたに違いなく。

 「きっと、
  和三盆の砂糖菓子とか
  小じゃれたスイーツしか食べないと思われてるんでしょうね。」

 「実は鯛焼きもタコ焼きも大好きですけどね。」

 「もんじゃのチーズお焦げも。」

 久蔵の一言へ、たちまち“あーっ、それアタシも大好きっvv”と、七郎次がはしゃいだ声を上げ。そこへと重ねるように、

 「同じようにお餅を薄く広げ延ばして、香ばしく焦がしたのもいけますよ?」
 「………vv」

 平八が畳み掛けたのへ、今度は久蔵が紅色の双眸を見張ってわくわくして見せ。わくわくが嵩じたらしい彼女から ぎゅむとしがみつかれた白百合さんが、

 「ヘイさんたら どんだけ美味しいものの切り札もってるかなぁvv」

 もうもうもうvvと 青い双眸を甘くたわませ、やっぱり嬉しそうに笑うものだから。

 「切り札って…じゃあ今から焼きましょうか?」

 そうまで褒められちゃあ、出し惜しみなんて出来ゃしませんと。ブラウスにアーガイル柄のセーター、プリーツスカートという愛らしいいでたちのお似合いな小柄な身に相応しい素早さで、コタツからぴょこりと立ってゆき。10分と掛からずという手際のよさで、ホットプレートからもんじゃのタネやら各種トッピングやら、お友達と談笑していた居間へ抱えて来たところが、

 「…それってお店のストックなんじゃあ。」
 「大丈夫ですよぉvv」

 ここは平八が居候している“八百萬屋”で。だからこそホイホイと支度も出来たのではあろうが、売上を削ってもいいのかとちょこっと案じた七郎次だったのへ。平盆に両手を塞がれたまま“だいじょぶ・だいじょぶ”とかぶりを振ると、

 「今日は随分と寒いせいか、客足も鈍いらしくって。」

 確かに、雪こそ降らぬが風も冷たいのは、それぞれ徒歩で此処へやって来た七郎次も久蔵もようよう承知。色白な頬を真っ赤にして訪のうた、そんな二人へにんまり微笑ったひなげしさん、

 「宵になってからの忘年会の予約こそ たんと入ってますが、
  甘味や粉ものの方は少しくらい削っても余裕なんですよ。」

 むしろ余らせる方が困りますと言わんばかりの平八なのへ、そかそか余裕なのなら遠慮は要らないかと安堵をし。そのまま頬をほころばせると、膝立ちになって“お手伝いしますよう”と。盆へと向けて、モヘアニットのセーターの、ドルマン袖に包まれた優しいシルエットの腕を伸ばすのが白百合さんなら、

 「…♪」

 こちらさんは、こたつの上をざっと薙ぐという豪快さで“片付けた”のが、スリムなパンツの上へ、グレーと渋紅というコントラストが小粋なプリントフリースと濃色チュニックの重ね着をした、一応はシックな装いの紅ばらさんだというにと、

 「あーあー、久蔵殿。」
 「まあ、雑誌やペンケースやポーチくらいだったから構いませんが。」

 あんまりらしかったのへ“あはは”とご陽気に笑った平八が、すっかりと空いたおこたの上へ ごとごとホットプレートを乗っければ、あとの二人が 油引きやらこてやらを 平盆の上から空いたところへ移すコンビネーションもなかなかのもの。そういう用意がある店屋さんだからというだけじゃない、てきぱきさんが揃っておればこそで、あっと言う間に本格的な“もんじゃパーティー”の場と化した居間であり。チーズにベーコン、めんたいこに餅に海苔…と。ますますのこと、お上品な“プチ何とか”いうスイーツとは程遠いおやつを堪能なさっておいでの三華様たちで。器用に こてを操って、はがき大のチーズのお焦げを上手に剥がした七郎次から、どうぞと進呈された久蔵さん。わあと頬を染めつつも、あっと思い出したらしいのが、

 「………(そうだ)。」
 「? どしました?」

 チーズのお焦げから何を連想したのでしょと、次は餅のお焦げを剥がしにかかりつつも七郎次がお返事を待てば、

 「いつぞやのダイヤの奴ら、英国フェアも狙ってたらしい。」
 「…………はい?」

 忘年会云々という会話からもお察しいただけたように、暦はもう、当然のこととして新しい年のそれが、街角のポスターだのテレビのCMや番組宣伝、ネットの広告バナーなんぞにあふれまくっている頃合いで。彼女らが通う女学園も当然のこと冬休み真っ只中。今年は12月に入った途端に厳しい寒波が訪れたせいか、例年以上にあっと言う間に年の瀬になったなぁという感が強い。ましてや、

 「いつぞやというのは、あのハロウィンの晩の怪しい奴らの話でしょうか?」

 餅のお焦げを剥がしたそのまま、めんたいことベシャメルソースを挟み込んでの二つに折ってという変わり種にし、取り皿へと取った平八が聞き返し、

 「そういや、あんまり大きなニュースになりませんでしたよね、あれ。」

 なので、うっかり忘れ掛かっておりましたと言いたいか。まあ未遂だったしなと、うんうん頷く久蔵も、実は今まで忘れてたという雰囲気で同意を示していたものの、

 「いやいや、ちょっと待ってくださいましな。」

 こてもお箸も止まって、しばし固まっていた七郎次だったのは、彼女もまた即座には思い出せなかったから…じゃあない。確かに、もはや2カ月近く前の話じゃあるし、その間にもあれこれと色々なこともあったり起きたりで、彼女らにしてみりゃあ半年くらい昔の出来事と一緒くたも同然じゃあるのだが。

 「…もーりんさん、自虐的。」
 「ブランクへの自覚が足りんとか。」

 放っといて…じゃあなくて。白百合さんがやや唖然としちゃったのは、

  「それって、どうして久蔵殿が知ってるの?」

 そりゃあ、あの騒動の現場になったのは、久蔵のご両親の切り盛りするホテルJではあったれど。今の今 久蔵が口にしたのは、その後というか、警察での取り調べを経なければ到底判らぬはずの事実であり、恋人が警察関係者である自分だって知らなんだこと。そりゃあまあ、捜査上 知り得たあれやこれやを、いくら親しいからと言って未成年の女子高生へほいほい話すような警部補さんじゃあないが、それを言ったら久蔵はもっと、そんな情報からは遠い身のはずなのにと、そういう意味合いから違和感を覚えた白百合さんだったのであり。

 「まさか勘兵衛様から?」

 まさかまさか、でもでも…と。災難に遭ったサイドの関係者と単なる勘兵衛の知己とでは、かかわりようが違うとは判っていつつも。自分が差し置かれたのなら複雑だなぁと、微妙に不安で揺れる心地のまま訊いたところ、

 「〜〜〜。」

 ん〜んとあっさりかぶりを振った久蔵お嬢様。ビスクドールのような繊細精緻な風貌だってのに、香ばしいチーズのお焦げを、パリパリパリと景気よくも齧りつつ。ぽろっとこぼしたのが、

 「結婚屋から(訊いた)。」
 「……良親様から?」

 久蔵の言葉足らずな部分を、七郎次があっさり読み取るのはいつものこと。だがだが、こたびは不思議と…そのまま“なぁんだ”という納得のお顔にならず、

 「………。」

 形のいい細い眉を寄せ、ますますのこと困惑気味なお顔になってしまった白百合さんだったので。

 「???」

 今度は彼女の側でも小首を傾げる紅ばらさんだったりし。そんな二人へ、

 “さすがに、
  何でもかんでも以心伝心というわけでもないらしいですね。”

 情報の共有って意味じゃあしょうがないですよ、ひなげしさん。





     ◇◇◇



 相変わらずに…という括り方をすると、ますますのことお嬢様がたからは様々に苦情が来そうながら。でもでも、年の瀬の現在から大急ぎで、あのハロウィンの晩へ戻ってみたれば。そこへと駆けつけた“大人側”の人々からは、同様なお声や感慨が聞こえて来そうな状況だったと言えて。

 「あら。」
 「お…。」
 「え? え? 何でですか?///////」

 裏方であるバックヤードさえ瀟洒にしてエクセレント。上質の品格あふるるホテルJには不似合い極まりない、いかにも荒ごと慣れした風体の男ら数人を相手にし。いでたちこそ それはそれは愛らしいベロアのワンピース姿だったにもかかわらず、いつもの(…)特殊警棒やT字ホウキをそれぞれの手へ凛々しくも得物と構えていた少女ら3人。戦闘態勢でいたからには、ただ単に居合わせ合ってただけじゃなく、身の危険を感じた彼女らが真剣本気で応戦していてのこの構図なのは間違いなくて。

  しかもしかも

 既に何人かを打ちすえてのひれ伏させたその上で、少しも怖じける様子はないままの“上から姿勢”でもって、あんたたちこそ降伏しなさいとばかりの交渉中だったのだから。島田警部補以下、駆けつけた警察関係者が唖然呆然としてしまっても無理はなく。そんな彼らへ、

 「何で勘兵衛様が?」

 まま、今回のは 別に…彼女らが何かを怪しみ、大人に相談なしに自分たちで解決にもってこうと計画立てて行動した訳じゃない。此処にいたら突然向こうから降って来た、文字通りの“災難”だといえるそれであり。だから叱られる筋合いはないとして(…そうかなぁ?)

 「まだ 110番通報しておりませんのに。」

 何たって警察関係者だ、危険なところへ現れてくれたのは助かるし安堵もした。けれど、こうまでタイミングよく現れたのは何とも不思議。そうと感じての実に素直に問うた白百合さんだったのへ、

 「…あのな。」

 彼女らと対峙していた不審な暴漢らを手際よく逮捕し、同行して来ていた佐伯刑事やその他の部下の皆さんに最寄りの署まで連行するようにと指示をして…という段取りを踏んでから。おもむろに彼女らの方へと向き直った勘兵衛はといえば、

 “儂らが来なけりゃ来ないで、
  ここの関係者が駆けつけたところへ、
  いかにも怖々と“あれぇ”とかどうとか言っての誤魔化して、
  大人に確保を任せたというところだったのだろうにな。”

 そういうのも“要領がいい”という括りでいいものか。むしろ危なっかしいことこの上ない手段ばっかり選ぶのだから、要領は悪い方じゃあなかろうかと。となると、巻き込まれやすいところは いっそ“不運”なだけなんじゃないのかこやつらと、もはや叱るよりも行く末を案じたくなったそのまま、

 「まあ、こたびは
  向こうから降りかかって来た難儀だったようだから叱りはせぬが。」

 まずはの把握を先に告げてやり。それへと、

 「当たり前です。」
 「…胸を張っていいことでもないのだがな。」

 えっへんと威張る平八や久蔵へ、一応の窘めを投げておれば、

 「勘兵衛様。」

 向かい合っていた自分の上からあっさりと視線を逸らしてしまった蓬髪の壮年へ、白百合さんがやや焦れたようなお声を放る。此処にいたのが自分たちだったと知り得て駆けつけたのかどうかはともかくとして、一体どうして通報もなしに彼らがこんなところへ現れたのかを問うた七郎次だったのに、その前に…と話を逸らしたのは明白で。

 “アタシたちが云々じゃあなくたって、
  あんな怪しい連中が好き勝手していると聞けば、
  こんな風に駆けつける皆さんじゃあろうけれど。”

 7人もの不審者が取り押さえられ、そのまま連行されたという物々しい空気が沸いたのへは、さすがに“何だなんだ”とホテル側のスタッフさんたちが今になって集まって来つつあり。何より此処は ハロウィンの宴を階差意中の大ホールへと供するあれこれを通す通路。そんな場では混み入った話も出来ぬということだろうか…と、それなりの機転を回しての推察も、出来ないではない七郎次ではあったれど。

 「………。」
 「…判ったから、上目遣いはやめなさい。」

 くどいようだが、そりゃあ愛らしいメイドさんの衣装をまとった金髪の美少女。日頃のデートでは、どこに視線をやったらいいのかという挑発的なマイクロミニなんぞ履いて来る、何とも困ったお嬢さんが。今日はそういう趣向だったか、膝下まで丈のある ふんわりたっぷりしたスカートという仕立ての上品なワンピースに、その濃色を冴えさせる真っ白いエプロンを重ねるという、しごくロマンチックないでたちをしておいで。これはこれでまた、年齢相応とは言えぬ恰好なのかもしれないが。それでも、すんなりとした肩やら二の腕、所作の麗しい小さな白い手や、すっきりした背中やか細い首条などなどがよく映えており。こ〜んな愛らしい子に…しかも実はこっそり懸想している対象でもあるというに。はぐらかずなんて酷いですぅというよな、責めるようなお顔なんかされた日にゃあ、

 『百戦錬磨の老獪さもどこへやら…でしょうか。』

 実はそこまで周到でした、ホテルの裏手へ乗り付けた移送車への容疑者収容が完了した旨、告げに来た佐伯さんが恨めしげな上目遣いになっている白百合さんと、それを困ったように見やってた上司という構図へ苦笑が絶えなかったそうであり。そして、

 『危機一髪だった当事者の君らから、何の通報も受けないままで。
  だのによくもまあ こんなピンポイントな場所へタイミングよく来れたと、
  それを不思議に思ったんだろう?』

 ピンポイントとはよく言ったもの。テレパシーでも通じたかというレベルの精密さで、場所といいタイミングといい、そりゃあ絶妙な間合いで来合わせた彼らだったことへの裏付けを移動中にこそりと教えてくれたのも、実はこの佐伯刑事だったりし。曰く、

 『良親がね、知らせて来たんだよ。』

 本当に口外はしないでくれよなと念を押してから、勘兵衛は結局何も語ってくれなんだ“コトの裏書き”とやら、自宅まで送ってくれたその道中で こそりと暴露した彼だったのは。七郎次には、勘兵衛が言いにくいとした心情も含め、あの微妙にややこしい立場にあるらしいかつての朋輩に関して、その微妙さ込みで事情が通じているよなもんだと思っていたからなのかも知れぬ。

 『良親様が…。』

 表向きには、ブライダルチェーンの御曹司。だがだが、何かと…非合法すれすれな事態にも通じているものか、主には久蔵の思わぬ窮地や意外なところに現れたりと、その言動には謎めきの多い御仁でもあり。そちらの伝でこたびも、あのような輩が暗躍していたこと、前以て感知していたということか、と。明らかになった事情へ却って混乱したか、うむむと眉を寄せた七郎次なのを運転席からミラー越しに見やった征樹さん。

 『あのホテルのご令嬢のボディガードを時々は担ってもいるそうだから、
  綿密な情報収集とやらを手掛けていて拾えたネタだったのかもしれないし。』

 そんな言いようをし、白百合さんの困惑を宥めてくれたのだけれども……。




       ◇◇◇



 「…良親様、今の世では一体何物なんだろう。」

 久蔵がもたらした意外な情報、あの窃盗犯らが実は別のブツも狙ってたなんてレアな話を知ってたほどに。応用力にせよ人脈にせよ、ただ“警察関係者だから”というのみならず、これまでの蓄積あってのこと様々に通じていよう勘兵衛でさえ凌駕しそうな勢いであり。いわゆる“裏社会”へ通じているらしい、現世の丹羽良親らしいなという把握が、そろそろ確定的になりつつある七郎次であり。

 「確かに不思議なお人ですものねぇ。」

 そういえば、お見合い中にややこしい追っ手が掛かるという窮地に陥った久蔵へ、そりゃあ頼もしいフォローをしたり。そうかと思えば…どういう目的あってのことか、平八が文化祭で展示した絵画へ、結句 意味の判らぬじまいとなった悪戯を仕掛けたり。そんなこんなのあってのち、怪しい輩に関して警察よりも情報が早いという希有な事実を拾った以上、平八もまたごくごく普通一般の人とは思えないとの感慨を口にしたのだけれど。

 「???」

 警察を出し抜くレベルの@情報まで得ていたくらいに、そんな不思議なお人と最も近しいポジションにいるらしいというに、暢気にもチーズのお焦げをお代わりし、ご満悦だった紅ばらさんへと、切れ者なお友達二人からの視線が集まったものの。ご本人は今の今まで ちいとも不審に思ってなかったようだから、それはそれで大物なのかも? 屈託が無さすぎる久蔵殿なのを見るにつけ、

 「……そうですね、
  久蔵殿が 後日談も知りたがってるんじゃないかって、
  彼なりの情報網を駆使してみただけかもしれません。」

 だってほら 私たちったら、ちょっと目を離すと危ない話へすぐ首を突っ込みの、怪しい輩を追って駆け出しのしてしまうからと。……どの口がそれを言いますか、白百合様と言いたくなるよなお言いようを七郎次が持ち出せば。(苦笑)

 「それにしたって、よほどに事情通だってのは間違いないですね。」

 ホットプレートの掃除を兼ね、こてでお焦げを一掃しつつ、平八がそんな一言をさりげなく付け足す。

 「三木さんチへ遠慮してか、
  あの騒動は 結局、ほぼ極秘扱いでどこにも報道はされずで終わったのに。」

 表沙汰にはならなんだ事態の勃発から、その続報までもを知ってるなんて、一般人とは言えないでしょうにと。もしかして自分でさえ知らなんだのにというのが残念なのか、ひなげしさんが微妙に不服げに言い足したものの。学業やら日々訪れる楽しくも忙しいあれこれのほうが、ずんと大事だったんだものしょうがないってことも、ようよう承知であるがゆえ。地団駄踏むほども口惜しいワケじゃあない。ただ、

 「……大人って面倒臭いんだなぁ。」

 現場で実際に翻弄されたのへ、俊敏さや反射を生かし、直接の対処をした自分たちと違い。大事が起きる前、情報の段階での駒を集めたり進めたり…に奔走しなきゃいけないんですものねと。それこそ自分たちだってかつては大人でおじさんだったのに、しかもそれをありあり覚えてもいるくせに。今はまだ10代だもんということで、勝手によじよじと棚へ上がってしまった感のあるお嬢様がた。もんじゃを堪能していたはずが、気がつきゃ…真ん丸なお好み焼きを、よいせと片手で軽快に引っ繰り返しつつ焼きながら、

 「それよか、大みそかはどうしようか。」
 「…っvv」
 「初詣で、行きますよね?」

 クリスマスが済んでのお次に控えしは、大みそかのカウンドダウンと、神社への初詣でというのが恒例のイベントで。そっちの方が今は大事だよんと、ころりと気持ちを切り替えちゃうのが現代っ子たる証しというものか。今年は港まで出てみない? あ、汽笛を聞くんですね? ○○港では花火も揚がる。わvv それは観たいかも…なぞなぞと、やっぱり自分たちの“今”の方が大事という話題に戻っておいでの豪傑さんたちで。彼女らにしてみれば、無頼や悪漢との遭遇と活劇だとて、それを畳むのが生業じゃあない分、単なる“予期せぬアクシデント”に過ぎないのかも知れませぬ。保護者の皆様には、そんな彼女らがせめてそういった予期せぬ事態に近づかれぬようにと初詣ででお祈りしてもらいたいもんだという他人本願な言いようを、今年のこのシリーズの結びとしたい、筆者だったりするのでありました。(こらこらこら)



   皆様、どうかよいお年をお迎えくださいませ。







  ● こんなところに補足もないですが、大人サイドの後日談 ●


 日々、暦に関係なく忙しく。その流れもあってか、大みそかという今日本日のその身の拘束こそ例年のこと。むしろ、帰省の交通渋滞が豪雪がらみの事故を起こしやすいことから忙しい交通課や、まずは所轄からの通報が入るのでそれを捌かにゃならぬ通信局ほどにはばたばたしてはない、捜査課の奥向きのデスクに待機中という、こちらは本職の誰か様がた。女子高生のお嬢さんたちが他人事的な帰着をさせた某氏の暗躍へも、さすがに渋いお顔を隠せずで。

  「勘兵衛様、お聞きですか? 例の話。」

 他には課員の姿がないせいもあったし、微妙に警察官という職務から外れた話だということもあっての、佐伯刑事からの“勘兵衛様”呼びへ。何を、を省略されている事情も含め、短く“うむ”と頷いた壮年の上司殿だったのを見届けてから、

 「あのやろ、前の騒ぎの折に 妙に遠回しに通報して来たのって、
  そっちの世界であからさまに自分が動いた痕跡を
  残したくなかったからじゃあないかと思ったんですが。」

 七郎次が窮地にあったことまで把握していたかは、今となっては本人にしか判らぬ謎なれど。少なくとも、自分にも関わりありなホテルJで悪事を起こされちゃあ困るが、かと言って公明正大に警察へ通報するのも、彼の微妙に怪しい立場というもの、揺るがすようでヤバかったものか…と。征樹さんこと佐伯刑事は思っていたらしかったが、

 「そんな甘いことではなかったようだの。」

 英国フェアとやらに出品される予定として王室関係から借り出したとされる、国宝レベルの宝飾品の数々を奪われていたならば。金銭的な損害のみならず、かなり大掛かりな信用問題にも発展しかねぬ。直接の責任を問われるのは主催した団体だろうが、治安までもを問われての国際問題にさえなったかも。

 「そちらをこそ阻止したかったが、何ぶん話が大きすぎるので、
  あまりにあからさまな妨害行為を取れば
  その手配から“誰の仕業か”もくっきりと晒されて危険だろうからの。」

 スポーツ紙を広げつつ、そんなお言いようをする勘兵衛なのへ。

 「そちらの世界との縁は切りたくなかろうし、
  完全に孤立しては危険でしょうからね。」

 さすがは同じ職種の畑をついて来た征樹殿。そんな言いようはないのだろうがそれでも、情報を得るために微罪は見逃してやってのその代わり…と“向こう側”の存在を手飼いにするなんてケースがなくもないように。心から同類ぞと胸襟を開きたいのじゃあない、利用したくての結んだ繋がりだとしても、だからってあっさり断ち切ると危険だったりもするのでしょうねぇと。元同輩の危なっかしい“世渡り”を推察しつつ、

 「……あ、そうか。」

 ふっと何かしら思いついたらしく。

 「どうしたもんかと思っておれば、
  そいつらの周辺から
  直前に例のダイヤを盗み出す手筈が聞こえて来た。
  そっちの実行犯はアマチュアに毛が生えたような連中なんで、
  きっと破綻するんじゃないかと睨んで
  監視をしていたところ、案の定…というところでしょうか。」

 だとすれば本当に何でも利用する奴ですよね、実行されるまで看過していたところが憎たらしいと。かつての朋輩の、周到というか粘り強いというかな性分を分析した征樹だったものの、

  「………果たしてそうかの。」

 勘兵衛の読みはもう少し深いらしい。風の冷たさは窓の向こうだから判らぬながら、いいお日和らしき陽のまばゆさに豊かな髪の輪郭を温めつつ。本当に内容を読んでいたものか、開いていた新聞を適当な雑さで畳む所作との並行で、世間話のように壮年殿が紡いだのが、

 「ちょっと計画通りにならなんだだけで恐慌状態になるような、
  いかにも素人臭い連中が、
  どうしてあのような、
  故買屋つながりという筋金入りの窃盗団と縁を結べたのだろうか。」

 「それは…。」

 何か言い掛かった部下の言を遮って。声こそ低めたそれだったが、やや強引に付け足したのが、

 「今時は悪事の仲間さえネットで募れるようなご時勢だというが。
  素人同士ならまだしも、
  半島や大陸の組織とも縁があるほどの“老舗”があれというのは
  何ともお粗末な破綻だとは思わぬか?」

 「あ………。」


    さて、ここで問題です。(おいおい)




    〜Fine〜 12.10.29.〜12.31.


  *何とか年内に終わらせようと頑張りました。
   とはいえ、途中でテンションが切れたのはやはり大きく、
   微妙に勘が戻らぬまま焦ったせいか
   随分とばたばたした、理屈まるけな〆めになってすいません。

   良親さんをどういうポジションにしようか、
   実はいまだに迷っておりまして。
   ダークサイドの結構やり手という、今のところの肩書は、
   警察よりも自由が利くというか、
   才覚次第で自分の意志で動けるのは美味しいかもですが、
   一から自力で手掛けなきゃならないし、
   立派に犯罪者ですから
   逃げ遅れたらば情状酌量の余地もないまま
   たちまちその自由を奪われる。
   そんな危なっかしさとの背中合わせでもあるワケで。
   しかも、時として仲間(というか情報源?)を信用出来ぬ。
   それと、これはは彼の資質からですが、
   堅気のお仲間には迷惑かけられないし…と来て、
   結構ハードな毎日だと思われます。
   要領いいと見せかけて、
   実は一番貧乏くじというタイプです、良親様。(う〜ん)

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